『オリンポスの郵便ポスト』 藻野多摩夫
書店で見かけて、この物語はもしや私の好きな要素がぎゅっと詰まっているのでは......? と思い始めて、そうなったら棚に並ぶこの本がぴかぴか光ってもう目が離せなくなる、いつものやつ。
今までに読んだ、すきだなーって作品がいくつもふわっと思い浮かんだら、それは、もう抗いようがなくない?????
まず郵便もの、配達もの、ってところでいちばんに思い浮かべる『ストロベリアル・デリバリー』が片山若子さんのイラストも相まって好きすぎる問題。
火星が舞台ということで、オリンポスとかタルシスとかいう単語が出てくるだけで、『クリュセの魚』とか『ほしのこえ』浮かんでくるし、なにこれ、楽しい。
ストロベリアル・デリバリー ぼくとお荷物少女の配達記 (集英社オレンジ文庫)
- 作者: 織川制吾,片山若子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/10/20
- メディア: 文庫
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そんなわけで。
今回の物語の舞台は、人が住めるように開発された火星。
それでも人が住むにはまだまだ過酷な環境で改良の余地はあるものの、諍いにより地球との交流は断たれてしまっていた。
そんな火星で郵便配達員として働いているエリスは、身体を機械に改造されたサイボーグ、クロの依頼により彼とともにオリンポス山のてっぺんにあると噂される郵便ポストを目指すことになる。
天国にいちばん近いそのポストに投函された手紙は、神様がどこの誰にでも届けてくれるという。
ちぐはぐならがらもエリスとクロがふたりぼっちの旅路で少しずつ言葉を交わしながら、オリンポス山の頂を目指していくゆったりとした時間の流れがとても印象的。
後半に進むにつれトラブルにも巻き込まれ何度もその身を危険にさらされるのですが、その危機を乗り越える度に2人の絆は強固なものになってゆく。
このトラブルも巨大生物に襲われたり、族に襲われたりと、どこかどきどきわくわくするような展開が続いて、このわくわく感、身に覚えがある! と考えてみたら、あれです、幼い頃にドラえもんの映画を観たときみたいな、わくわく感。
時間を重ねるごとに親しくなっていくも、お互いが過去に抱えた並外れた事情を語りだしたり尋ねたりすることはなくて。
最後の最後になるまでそれが明かされることはない、というのが本当にずるい。
最初に明かされていたら、ふたりの関係や旅がまったく違うものになった、ということはないだろうけれど、それでも幾分か違う気持ちで旅をすることができたのではないだろうかと思う。
というか、そもそも死に場所を求めるサイボーグ、っていう設定の時点で色々とずるいよね。機械の身体のおかげで長い間思考を続けてこられたけれど、メモリーの寿命だけはどうしようもなくて。最後に地球に向けて届けたい手紙があるという、クロの願い。
「手紙を書く」ということが本当に象徴的に描かれているんですが、思いを整理するという意味でも思いを託すという意味でも手紙を書くということに並々ならぬロマンを感じます。
時々、特に誰に宛てるでもなく手紙を書きたいと思うことがある。
手紙を書く、ということを決めてから、誰に宛てようか考える感じ。
頭の中で私なりの綺麗な言葉を並べてみるけれど、結局それらが文字に起こされることはなくて、1日も経たないうちに消えていく。
こうしてキーボードを叩いてできる文字と手書きの文字には、大きな違いがあると私はあると思っていて、インクの色や便箋や封筒の何から何まで、その手紙を受け取る相手のことを思って選んでみたい。
私のことだから、文字の上では多分口では言えないようなことも臆面もなく書き綴るだろうから、気合十分に用意した思いを封筒に込めて、あわよくばそれが相手に届いたことなど知らずに生きていきたい。