ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『また会う日まで』

『また会う日まで』 柴崎友香

また会う日まで (河出文庫)

 

 

「ナツヨム」にて手に取った作品。

今はもう冬だよ、とか野暮なことを言う人はきらいです。私の夏は終わらない。

 

shiyunn.hatenablog.com

 

 

 

 

高校時代に同級生、鳴海くんに抱いていたなんとも言い難い感情の正体は何だったのか。

20代半ばになり大阪で会社員として働いていた有麻は、東京へ遊びに行くついでに久しぶりに彼に会ってみようと思い立つ。

そんな有麻の一週間の東京観光を描いた物語。

 

 

まず有麻と鳴海くんの間に合った不思議な感情について。

修学旅行中の夜に鳴海くんが行った心理テストの、有麻のことを「セックスフレンドみたい」だと思っているらしいという結果にすとんと納得してしまう有麻。

直接手に触れたこともなければ、密に連絡を取り合うこともなく、取り立てて親しいということもなかったけれど、ただ、なんとなく「セックスフレンドみたい」だという表現が腑に落ちてしまう。

鳴海くんもきっと同じような思いを抱いていたのではないか、と思いながらも直接心理テストの結果についてどのように思っているか訊くこともなく大人になってしまった。

昔の恋心を思い出してどきどき、というようなことは一切なく、きっと好奇心に近い思いで数年経った今、かつてのことを訊いてみようと鳴海くんと約束を取り付ける。

 

この、「セックスフレンドみたい」だという表現、具体的に説明はできないけれど意外なほどすんなりと胸の内側に落ちる。「ああ、なんとなくだけど分かるかも」と。

 少なくとも「友情」や「恋」と名前をつけてしまうのは違う。

作中では「他の人とは違う感じ」だったり「生き物っぽい感触」と表現されているのですが、このなんとも言えない感情が本当に繊細で絶妙に書かれている。

恋とか友情なのだと、その気になればラベルを貼り付けることはできるけれど、きっと「セックスフレンドみたい」だと感じた思いは淡くかき消えてしまう。

 

それだけに、私がこの本を読んでどのように感じたか、というのも言葉にするのが非常に難しい。

なんというか、必要以上の強い言葉を使いたくないのです。

砂糖の入っていないアールグレイのミルクティーみたいな感じ。

べたべたするような甘さはなく強い味のアクセントはないけれど、 ないからこそすっと飲みやすいし、飲んだ後にはちゃんとミルクの優しい甘さと柑橘系のアールグレイの香りがふわっと香る、みたいな。みたいな???

 

 

有麻は鳴海くんをはじめ、色々な人と東京で出会うことになるのですがその距離感がどれも違っていてどれも生っぽい。

どこかよそよそしい感じを漂わせていたと思いきや、些細なことでぐっと距離を縮めたりもする。

その微妙な距離感の変化だったり、友人間の距離感を主人公の有麻もちゃんと感じ取っていている。

 

 

 

作中で一番好きな有麻の心の動きは、数年経って社会人になった鳴海くんに会った有麻がかつて感じた印象とは違うような気がして残念な気持ちになるところ。

多分、俗っぽくなったのだな、と思う。

はっきりその違和感を言葉にすることはなかったけれど、どこか残念そうにしていた有麻と違って私は、この、かつての同級生が俗っぽくなる感じ、すごく好きなのです。

「俗っぽい」というとなんだか悪口めいてしまうので直接本人に向かって言葉にしたことはないのですが。ほんとは、「俗っぽくなったね。」って言いたい。

多感な時期の色んな意味でなんだか危なっかしい気がする感じが、年を経て当たり前のように薄れていくのがなんだか嬉しいのです。

定期的に会わない限り、同級生はいつまでも私の中で同級生のままなのだけれど、久しぶりに会って当たり前のように大人になっていることに、感動するのです。

「ちゃんと大人になれたんだね!」なんて上から目線でものから言っている感じになってしまうのだけれど、なんていうかなんていうか、そうじゃなくて。

「お互い歳を取ったね」なんてそういうことを言いたいわけじゃなくて。

なんというか、祝福したいのです。

 

それでも有麻の残念がる気持ちも十分分かるのです。

なんとなく共犯めいた、なんとなく一蓮托生のような気がしていた、あの頃の感覚が知らぬ間に消え失せてしまっているのは、かなしい。

 

 

 

 

読み終わった後でつるつる調べてみたら、『ビリジアン』と同じ作者の方と知って小さな発見。

ちょっと前に書店で表紙が見えるように面陳されていて少し気になっていたのです、『ビリジアン』。

ビリジアン (河出文庫)

ビリジアン (河出文庫)

 

 

 

 

 

とりあえず、「セックスフレンドみたい」という感覚が、私にとって上手く言葉にできない程にクリティカルすぎて、あの人はセックスフレンドっぽいかな、どうかな、ってしばらくあれこれと考えてしまいそう。