『向日葵ちゃん追跡する』 友井羊
新潮文庫nex作品から出ている友井羊さんの作品。
私にとっては、『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズ以来の作品になります。
まず、この表紙の遠田志帆さんのキュートなイラストと、『向日葵ちゃん追跡する』というふんわりとしたタイトルとは裏腹に、主人公の向日葵ちゃんが元ストーカーという私の中ではかなり異色な設定にどきどき。
今回、そんな経歴を生かして(?)ストーカー対策の防犯アドバイザーをしている向日葵ちゃん。
とある折に殺人事件に遭遇し、元ストーカー相手が疑われてしまう事態に。
なんとか助けてあげたいけれど、警察からの注意もあり近づくことのできない感じが、取り方によってはコミカルにもシリアスにもなる感じが。
いや、向日葵ちゃん含め登場人物は皆、至って真剣なんですけどね。
まず、お話の中でスパイ道具みたいなものがちらほらと登場するのですが、レーザーで空気の振動を読み取って盗聴する道具なんて、あるんですね。
お話の本筋とはちょっとずれたところで、なんだかよくわからないけれどすごい機械の登場にわくわくしてしまいました。
やましいことに、ではなくちょっと使って遊んでみたいという私の子ども心がうずく……。
それから、種々のパンケーキが出てくること出てくること。
中には、きっとあのお店のやつだ! と思えるような描写もいくつもあって。
今回はスープのお話じゃないから……と油断していたのですが、まさかこれもこんなにお腹の空くことになるとは……。
主人公である向日葵ちゃんの身のこなしが、19歳とは思えないくらいに手慣れていてびっくり。変装用にどれだけ服装と眼鏡を揃えているの……。
そして、「ストーカー」という存在が切っては切れないお話になっているのですが、ストーカーとそうでないものの境についてちょっぴり考えてしまいました。
向日葵ちゃんも初めは純然たる好意だけを抱いていたのに、いつの間にか何もかもが自分本位になっていってしまう。
作中でもちらりと触れられていたけれど、そういう風に誰かを思いやる、というのは時々甘美で、だからこそ薬やアルコールのようにいつか手放せなくなってしまうこともあるのかもしれない。
気がつけば、あの人のことを考えずにはいられない。
多分、良かれ、という気持ちから始まるからより一層タチが悪くてこじれてしまう場合があるのかな、とも。
ストーカーが題材でも、じめじめとした雰囲気になりすぎずさくさくと読み進めることができました。
とにかく、向日葵ちゃんの同僚もなんだか妖しい経歴の人ばかりで、本気出したら何らかの大きな組織転覆できそうなくらい。
まだまだそんな同僚たちの人となりを掘り下げる余地はありそうなので、ほんのり続きが刊行されることも期待しつつ。
(向日葵ちゃんの別変装ver.も見てみたい……。遠田志帆さんのTwitter上に、別ver.のラフも上がっていたのですが、よき。)