『青の数学』 王城夕紀
新潮文庫nexから刊行されているこちらの作品を読んだのですが、タイトルや表紙の雰囲気から静かな小説かと思いきや熱い夏が描かれていて、スポーツ小説を読んでいる時みたいに登場人物たちの息遣いが聞こえてきそうなくらい。
主人公の男子高校生の栢山(かやま)は、恩師の言葉を胸にただひたすらに数学と向き合い続ける。
栢山くん含め、登場人物はどこか淡々とした語り口の人が多いのですが、数学に対する思いはひたむきで様々。
今回のお話で少年少女たちの胸を熱くするのは、とあるサイトで日常的に行われる「決闘」。
決闘者同士が各々ルールを決めて数学の問題を解き合って競うものなのですが、時折その勝敗に自分の思いを託す感じがたまらない。
栢山くんの同級生として野球に打ち込む少年や薙刀の試合の魅力を語る少女が登場するのですが、そんな彼、彼女たちとなんら遜色ない熱い夏を栢山くんは過ごす。
物語の中盤で、「決闘」が行われているサイトが主催する夏合宿に参加し、そこでいろんな「数字」に出会うことになるのですが、グループを組んで問題を取り組む場面での、最後の問題の解法を切り詰めていく感じがもう、本当にたまらないのです。栢山くんが他の人の手を借りて解法に辿り着いた時に、ふわっと景色が広がる感じ。
もちろん色々な数学にまつわるエピソードも散りばめられていて、それこそ身の回りの数字を見つめる目が変わりそうなくらい。
あれは、孤独な数字だね、って日常的に言いたい、真似したい。
私が高校生の頃、どちらかと言わずとも数学が苦手で、目を背けがちだったのでした。それこそ問題に向き合っても「閃けなくて」。
そんな「閃き」に関して触れられる場面があるのですが、閃きという言葉はあたかも何もないところから突然生み出したような響きがあるけれど、どんな問題でも努力しなければ閃けない。
沢山あるピースの中から、くるくる回してみたり裏返してみたりしてなんとか目の前の問題に当てはまりそうなピースを探してゆく。少しずつ少しずつ正しいものに近づいてゆく。
数学から距離を置いて手持ちのピースを増やそうとしなかったら、閃けないのは当然だよね、と改めて思う。
でも、なんていうか、少しずつ少しずつ近付いて目の醒めるような何かを探してゆくのはなんだか私が本を読む理由にも似ているな、とも思う。
いろんな表現やいろんな感情やいろんな言葉に少しずつ少しずつ触れながら、私の中にある絶対的な何かを「ことば」として捉えようとする感じ。
終わりまで読んで、
この終わり方、絶対続き物だよね?
次はいつかな、
と思ったら、次は2016年10月末刊行、としっかり書いてありました。
そうだよね、まだ京さんのお話の核心に全然触れられていないもんね。
夏合宿では、皇さんに圧倒的な力の差を見せつけられた栢山くんだけど、きっとゆくゆくは肩を並べることになるんだろうなと思うとわくわくが止まらない。