ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係』

『近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係』 久遠侑

近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係 (ファミ通文庫)

 

ファミ通文庫より刊行されている作品。

 

こちらの2016年上半期ランキング含め、様々なところで評判になっているのを目にし、気になっていたので。

 

主人公の男子高校生、坂本健一は、母と2人で暮らす家にて、同い年の親戚の女子高校生、和泉里奈と同居することになる。

今までにないほどにぐっと近くなった同年代の異性との距離に、初めは気恥ずかしさを覚えながらも、少しずつ時間をともにするにつれ、次第にその「気恥ずかしさ」から感情の色が変化してゆく。健一自身、その変化を持て余しながらもあくまでも表面上は何も変わらずに里奈との生活は続いてゆく。

また、健一と幼い頃から顔見知りであり、健一の所属するサッカー部のマネージャーを務めている森由梨子は、いち早く健一の変化に気が付き、今まで単なる「幼馴染」であった健一と由梨子との距離感にも変化が生じる。

 

 

今回はラブコメディではないので、健一に対して2人のヒロインが好意を寄せながら取り合いをしつつも、全員まんざらではない感じでお話が進んでいく、なんてことはまったくなくて。

甘酸っぱいというよりも、心の端っこが締め付けられるような恋愛小説。

あらすじから大筋は察することができる通り、健一すら自覚していない恋とも呼べない里奈に対する未熟な感情を、由梨子がいち早く察知して、多角的に思いが交差してゆくのですが、そこに至るまでの描かれ方がとてもよくて。

多分「設定」だけ聞いたらありがち、と言われてしまうかもしれないのですが、ちゃんと登場人物それぞれの人となりを描く間合、余地が残されている。

 

人の温度をはっきりと感じさせるひたひたとした文章から、名前の付けることのできない様々な思いを汲み取っていく。

とても抽象的ではあるけれど、ひたひた、ってあれです。瑞々しいより静かでパステルカラーの要素を少し抑えた感じの、褒めてますもちろん。

 

 

最後の場面に向けて、思いが積み重なってもう昔には戻れない程に色が変わってゆくのが、たまらないのです。

ひとことで言えば切ない、のだけれど、きっと喜びと傷つきが表裏一体になったまま戻れないところへ進んでゆくことに切なさを見出している。

 

 

同じくファミ通文庫作品なのですが、『この恋と、その未来。』シリーズが好きな人なら、私の言う「切ない」にきっと共感してもらえると思うのです。

(そして私は『この恋と、その未来。』シリーズのお話が「ちゃんと」終わるというミラクルをまだどこかで信じている)

 

 

 

 

これがとりあえず、今回でお話がひとまとまりになっているのか、シリーズ展開を前提とされているのかも分からずに手に取ったのですが、あとがきによれば、まだしばらく続きがあるようで。

「事情が許す限り、当初構想したところまでは、この小説を書き続けていくつもりです。」の文字に思わず小躍りしそうでした。

......本当にこういうゆっくりとした恋愛小説を大事に読んでいきたいのです。

実を言うと、いわゆる「流行り」の恋愛小説は出会いから終わりまですっきりとし過ぎていてあんまり入り込めない場合が多いのです。文章が、構成が、というより、多分単純に私がその世界観に触れている時間の長さの違いなのかもしれませんが。

悩みだったり恋だったりを、登場人物自らはっきりと「そうである」とラベリングするまでの時間を一緒に感じていたいな、と思うのです。