『にじゅうよんのひとみ』 吉田恵里香
loundrawさんのイラストだ、と思い店頭で手に取り、ぱらぱらと。
表紙の折り返しにある「私、去年の誕生日と、何が変わったのかな」という一節と、目次にある章タイトルの小気味良さに心撃ち抜かれて今に至る。
「捨てちゃえよ、ひとみ」とか「しくじったね、ひとみ」とかとか読点「、」が付いてるタイトルに何故か心惹かれる傾向にあると私独自の統計による調べが出ているのです。
そして、1度イラストレーターさん買いの味をしめると抜け出せないって、私、知ってる。
そんな風に何気なく手に取ったのですが、読み始めたら止まらなくてがりがりと私を削ってゆく……。
主人公のひとみの24歳の誕生日を巡る物語。
冴えないにも程がある彼女の前に赤ん坊が現れる。その赤ん坊は、1時間ごとに1年成長してゆき、ひとみはそれがもうひとりの自分であることに気がつく。
ひとみは、もうひとりの自分「ヒトミ」の願いを叶えながら、自身の過去を振り返ってゆく。
まず、ひとみの「冴えなさ」の描写がこれでもかと言うほどに容赦ない。
すっかりルーティンと化してしまったものの誕生日を迎える夜に、一緒に暮らす男性に求められることに、それなりに幸せを感じながら、感情に名前をつけるのは怖くて、避けているというひとみ。
成長していくヒトミと1日過ごす中で、ひとみは俗に言う黒歴史と向かい合うことになるが、冴えない今の自身を思うとせめても過去の自身の要望は叶えてあげたくなってしまう。
冴えないと思いつつも、たちの悪い自尊心だけはあって、少しずつ下方修正しながら無理やりに自分自身を納得させている。
他人から見たら何の価値もない、くすんだおもちゃの硬貨を必死に磨き続けているような。時々それを掲げては自慢気に微笑む感じ。
このひとみの人となりに、あまりにも身に覚えがある部分が多すぎて、読んでる途中にがりがりと削られて思わず本を閉じてしまった場面が何度か。
ひとみほど突き抜けてはいないものの、間違いなくひとみの人生を指差して笑えるほどではなくて。
これで、自らの不遇っぷりに憤るような面も垣間見えたのなら、まだよかったのですが、ひとみは自身の身の回りのことに対して諦めてしまっていることが多すぎる。
決定的に、自分で自分を幸せにしてあげるための、意気が足りない。
過去の自分とは言え、誰かに頼られることなんて今までなくて、不可解な状況ではあるけれどヒトミの願いを叶えていくのが心地良くてたまらない、ひとみ。
だからこそ、最後には痛みを伴いながらも、色々なものを自分で取捨選択するようになったひとみを見て、胸がいっぱいになる。
何気なく手に取った作品ではあるけれど、きっとこのひとみの冴えなさが「突き刺さる」人は結構多いのではないかと、私は密かに思っている。
例えば、今までの人生を振り返ってみて、胸を張って満点近い点数を付けてあげられない、誰かとか。