『ボタニカル』 有間カオル
以前にコメントでおすすめしていただいた『魔法使いのハーブティー』。
その作品で登場した種々のハーブティーがもたらすあたたかい雰囲気にすっかり魅せられ、そのままの流れでこちらも読んでみることに。
タイトルからしていかにも植物っぽい、面白そう! という安直な理由。
書店で手にして初めて分かったのですが、この『ボタニカル』の表紙、樹皮みたいにざらざらとした紙が使われていて、ちょっぴり心をくすぐる。
主人公は雨宮芙蓉という名の樹木医の女性。
専門的に植物に携わる女性、というだけで『ルリユールおじさん』に出てくる主人公の女の子を思い出してしまう、たのしい。
芙蓉が暮らす世界には、植物寄生病、植物共存病、Parasitic plant disease 通称、ボタニカル病という名の珍しい病が存在している。
芙蓉は医者ではないものの、医療研究機関にて務める朝比奈とともに、ボタニカル病の解明、果ては完全な治療を目指して、樹木医の立場としてボタニカル病と向かい合う。
ボタニカル病といっても病状は様々で、共通しているのは植物が何らかの理由で人体に寄生してしまっているということだけ。
春夏秋冬、4つの章から構成されているのですが、春ノ章で登場する患者は口から花を吐く、というものでした。
どのお話も、植物は心理的な何かがきっかけで寄生しており、まるで欠けた心を埋めるかのよう。
聞きなれない花の名前がいくつか登場するので、逐一それがどんな花なのか調べながら楽しく読みました。
梅花藻ってこんな花なんだ、滋賀県が名所のひとつらしいけれど、ライトアップされたらさぞ綺麗だろうな、とか、
山荷葉ってあれか、雨が降るとガラスみたいに花弁が透明になるやつ、前にネットで見たことあるやつだ! ゆくゆくは庭に山荷葉の花を、とか、
ひえー、綴化のひまわり調べてみたら、奇怪なサボテンの画像がうじゃうじゃ出てきたー、とか。
なので最初は気が付かなかったのですが、ページの余白に春夏秋冬それぞれ添えられている植物の絵は、作中に登場するものだということに半分くらい読んでようやく気が付きました。
どのお話も、ボタニカル病を治すには、欠けてしまった心を埋めるしかなくて、ちょっぴり不思議な病とどこにでもありふれているような不幸せと。
次はどんな花が登場するのかな、と順調に読み進めていたのですが、冬ノ章でところどころ語り手である芙蓉目線の描写で違和感を覚え始め......。
まさかの事実。
最後の続きがすごく気になるんだけど、ここで焦って読んだら絶対後で分からなくならなくなる、落ち着け落ち着け、という感覚を久しぶりに味わいました。まてまて、と思いながら同じところを何回も読んでしまう感じ。
『魔法使いのハーブティー』のあたたかい終わりや、春夏秋ノ章に登場する鮮やかな植物のイメージが強く残っていて、あんな終わり方をするなんて思ってもいませんでした。
作中で、果たしてボタニカル病は完全に治すべきものなのか、と問う場面があり、軽い気持ちで「さもありなん」と思っていたですが、この結末を持ってしてなんとも言えなくなってしまう。
読み終えた今は、ただただ、寂寥感のようなものだけが私の心に残っている。
ボタニカル病自体はすぐに完治すべきものではない、と私は思うけれど、ボタニカル病を巡ってボタンの掛け違いが起こってしまう以上、なんだか痛ましい気持ちになってしまう。
きっとこの作品に登場するすべての人々が植物に憑かれている。