『星空ロック』 那須田淳
それこそ、今のように本が好きになる前に那須田淳さんの『一億百万光年先に住むウサギ』を読んだ記憶があり、細かい内容は覚えていないのですが、当時からずっとタイトルと著者名はずっと覚えていて、書店で那須田淳さんの名前を久しぶりに見かけた際に、懐かしい思いに駆られて、つい。
もともと那須田淳さんは児童文学でデビューされているということもあってか、読みやすい文章で表現されていて、最後には素敵な結末が待ち受けていて、最高によい。
那須田淳さんの柔らかい文章が素敵な結末によくなじむ。
主人公は日本で暮らす14歳の少年のレオ。
偏屈で誤解されやすい老人ケチルにギターや音楽について教えてもらいながら、ケチルの若い頃にベルリンで暮らした時の思い出話に耳を傾ける。
ケチルの死後、レオはベルリンへ1人旅をすることになり、ケチルの思い出にまつわるレコードを手に異国の地に足を踏み出す。
ベルリンにて発揮されるような音楽の才能があったり、とびきりの困難に出会ったりするほどの大きな起伏はなく、旅自体は留学している従妹のもとにお世話になる、という比較的安全で地に足ついたものではあるけれど、だからこそレオがベルリンで出会う発見や驚きは等身大で瑞々しさに満ちている。
ただ国が違う、ただ人種が違う、ただ歴史が違う、というだけなのだけれど、レオは日本にいるだけでは絶対に触れることのないものに出会う度に、色々なものを学んでゆく。
それが私にはちょっぴり眩しく映るほどに。
レオとベルリンの人々を繋ぐ大切なものとして、音楽の存在があるのですが、ロックが好きなレオがクラシックのピアノ弾きの同い年の少年とちょっとした口論をしたり、可愛い女の子に小さなフェスのバンドメンバーに誘われたり、と日本で過ごしたケチルと語らった日々がこうして花を咲かせるのがとても素敵で。
那須田淳さんがドイツに在住されている、ということもあってかベルリンの家並みや暮らしが所々カタカナ表記の現地の言葉を用いて描かれていて、どんな発音をするのが正解なのだろう、など、いろいろと想像しながら雰囲気まで楽しんで読むことができました。
くるくると分かりやすく動く登場人物の表情がどこかキュートであることや、ケチルのレコードのもたらす微笑ましく柔らかい結末に、さざ波のようにあたたかさが胸に広がる。
今まで、色んな本を読んできて、もちろん苦い結末の物語やハラハラする展開の物語も読んできたけれど、改めて物語の開始からじわじわゆっくりと素敵な結末に向かう物語もすごくいいな、と思う。
展開に気疲れしない、という意味では違うのですが、なんだか、とても安心します。
たった三泊四日の滞在ではあるけれど、きっとレオはいくつになってもこの夏休みのことを忘れることはないのだろうな、と思う。
そしてきっと年老いて死ぬまで、何度も折に触れて思い出すことになるのだろうな、とも。
レオにとって何かをするための原動力にも支えにもなりうる特別な何か。
実家に帰ったら、また本棚の奥から『一億百万光年先に住むウサギ』を引っ張り出して読み返してみたい。
当時読んだ時の生の感想は忘れてしまったけれど、きっとそれとはまた別の今の私なりの素敵な何かを得ることができそうで。