『書店ガール』 碧野圭
ドラマ化したこともあり、その名前は知っている方もきっと多いであろう『書店ガール』シリーズ。
『バーナード嬢曰く。』に登場するド嬢ではないけれど、あまのじゃく発揮しがちな私は、「今はまだ読むべきではないのだ」と訳の分からない持論を展開して、頭の中の積読本リストの二階席くらいに置いていたのですが、最新刊のサブタイトル見たらそれを読みたくなってしまって。最新刊のサブタイトルは「ラノベとブンガク」。
ライトノベルに限らず、俗にライト文芸やキャラクターノベルと呼ばれる作品群に浸かる者として、読んでみたい、と思ったのです。
舞台は吉祥寺にある大手チェーンのペガサス書房。
主に2人の女性の視点から物語が進んでいきます。
紆余曲折あれど困難にめげず立ち向かう全体的に明るいお仕事小説、くらいに思っていたのですが、そんな私の甘い見通しは開始早々打ち破れる。
思いのほか、人の嫉妬などから煮出した陰湿さや大人げなさが生々しく塗りたくられていて、読んでいて「ひえー、これは流石にひどい.......」と作中で悪意を垂れ流す登場人物たちにざらついた思いを抱いてしまいました。
多分、そのざらついた気持ちは、私の身勝手な「出版に関わる人たちは他人がどうであれ書籍を愛する人であって欲しい」という願いからくるものなのかもしれません。
人間関係のしがらみだけではなく、編集者や書店員として働くことの大変さが随所に表れていて、どの業界でもきっとそうであるけれど、夢、ばかりではない。
だからこそ、そんな苦労をしてでも色んな人が読んでもらいたいと思った本だからこそ、こういう小さなブログの上であってもちゃんと手にした本のことを私なりに残しておきたいなと思うのです。
雑誌の付録の紐かけをする場面にて、
ただの印刷物がちゃんと本や雑誌になるのは、人に関心を持たれたり、読まれたりするからじゃないかと思うんだよ。 p.56
と、ある登場人物が言うのですが、特に印象に残っています。
この、見た目や物質的には、そこに何の変化もないのだけれど、「印刷物」が初めて本当の意味で「本」になりうる瞬間があるということ、そしてその一端を私も担っているということに、なんだかわくわくする。そしてその本たちは多かれ少なかれ、見えないところで私の一部になっている、自室の狭い本棚の中でそれぞれが様々な色を放って私に何かを訴えかける。
それから、この作品を読む時に楽しみにしていたことがひとつあって。
書店を舞台にしたお話しということもあって、実在する作家さんや作品の名前が登場するのを楽しみにしていました。
冒頭で大学生の男の子が、文芸フロアに西尾維新さんの作品は置いてあるのにライトノベルは別の売り場なのか......とちょっとした小言のようなことを言う場面があるのですが、その男子大学生の言いたいことも、よく分かる、と思わずふっと笑ってしまいました。
最近で言うと、冒頭で触れたキャラクター文芸レーベルの扱いが書店ごとにばらばらで店内をふらふらしてしまうことがたまにあります、もちろんそれはそれで楽しいのでよいのですが。
それから吉祥寺ということで中田永一さんの『吉祥寺の朝日奈くん』の名前が登場した時にはちょっぴり嬉しかったです。
この嬉しいと思う感じ、よく感じるのですがどのように表現するのが適切なのかいつも迷ってしまいます。
好きなヒーロー、ヒロインがまた登場してきた時の、も違うし、
旧友に思いがけずばったり会った時の、も少し違う......。
話は戻りますが、『吉祥寺の朝日奈くん』も好きな作品のひとつで外出した際に「吉祥寺」の名前を見かけるたびに思い出してしまいます。
こう、鉄道の駅の名前がモザイクマップみたいに色んな作品で彩られていくのがたまらなく楽しいのです。行く先々で駅の名を目にするたびに好きな物語のことを思い出す。「吉祥寺」の色に『書店ガール』も加わりそうです。
そして、気になる続刊のサブタイトルが「最強のふたり」ということで、『書店ガール』を読み終えたばかりの私としては、「そりゃ、あのふたりは最強でしょうよ」とわくわくしてしまう。
読まなくちゃ。