ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『放課後スプリング・トレイン』

『放課後スプリング・トレイン』 吉野泉

放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)

 

福岡を舞台にした4編の連作短編ミステリ。

 

 

言葉遊びのような、ダジャレのような連想的に次々と紡がれる言葉の選び方がとても好みでした。

決してコミカルでおどけた雰囲気ではなく、登場人物たちが共通の理解を楽しむかのようにする理するりと淀みなくいろいろな言葉が流れてゆく。

主人公の泉たちが校内新聞のアンケートという名の大喜利のためにあれこれと頭を悩ませる場面があるのですが、春の色や奇跡の色、というお題に対して、いろんな方面から一緒になって適切な答えを考えていくのが楽しい。それは文学であったり自然現象であったり心の動きであったり文化であったり。

『鍵』という詩が冒頭で引用されていて、そこでいう「鍵」とは何かを紐解くものであると説明されている。

 

泉は、大学院生の飛木の手を借りながら謎を解決しようと試みる。

高校生という、精神的にも知識的にもまだまだ未熟な部分が多く、対面する謎のほとんどは泉の心の中に様々な色を落としていく。

単純な驚きであったり、霧が晴れるような晴れやかさだったり。

ちょっとした罪の意識だったり、無力感だったり。

 

 

最後のお話の『カンタロープ』での、飛行船を眺めるシーンがたまらなく好きだ。

泉は母にも見てもらおうと声をかけるのだが、その間に飛行船はどこかへ行ってしまう。

何気ないシーンではあるものの、私の中で河原の綺麗な石みたいに、きらきらと光っている。

飛行船は紡錘形、ラグビーボールも紡錘形、だからどこへ飛んでいくのかわからない。

そんな泉は、スピンドル(紡錘)に、よく似ている、と飛木は言う。

そしてスピンドル自体は、表題作でもある『放課後スプリング・トレイン』でも少し話題に上がる。

 

そんな風に泉の日常に転がるすべてのものが繋がりを持って、彩っている。

この感じが読んでいて、本当に小気味よい。

上手く表現できないのですが、それこそ河原の石のようで。

気にしなければただの石ころなんだけど、見方を変えて、目を凝らして、色んな色に輝く石があることに気が付く感じ。

もちろん宝石のようにすごく価値のあるものではないけれど、綺麗だという思いはずっとかけがえのないものとして、心に残り続けるような。高校生の泉にとってはそれが眩しいくらいに輝きを放つような。

 

 

 ずっと解釈の分からなかった山村暮鳥の『りんご』という詩を、泉が体験から自分なりの解釈を見出す場面で、私も思わず小さく息を漏らしてしまう。

 

 

気づけば、鍵はすぐ隣にある。

今なら証明できるし、ここに証拠だってある。紡錘形をした、カンタロープ色に輝く、りんごの友達を、私は大事に抱えている。

 最後のこの一節も、よい。

泉にとっては、紡錘形もカンタロープも色もりんごの友達も、文字通りの意味だけではなく、様々な輝きを持つ言葉だ。

その、最後の一文にたどり着くまでの泉の驚きや発見をともに見守ることができたことを、なんだか幸せに感じる小説でした。