『拝啓、十年後の君へ。』 天沢夏月
記事にはしていないのですが、以前に天沢夏月さんの作品で『思春期テレパス』を読んだことがあり、その時の印象が残っていて、今回店頭で見かけて気になったので手にとってみました。
loundrawさんの装丁イラストも理由のひとつです。
6人の高校生の日常を描いた群像劇。
ある日、小学1年生の時に10年後の自分へ宛てた手紙がタイムカプセルとして郵送されてくる。
受け取った人は、当時の連絡網に従って次の人へ責任を持って郵送する決まりであり、1通ずつ減りながら手紙の束は人から人の手へ渡ってゆく。
6人それぞれが抱えている悩みだったり、うだつの上がらなさだったりがまさに高校生らしくて、私にはそれが少しだけ眩しい。
何をすべきなのか、心の底では分かっていながらも、現実から目を背けたり言い訳したりするのだけ上手になって、目の覚めるようなきっかけを待ち続けてしまうような、きっと誰にも身に覚えがある宙ぶらりん具合。
例えば、恋だったり夢だったり人付き合いだったり。
奇跡や明るい未来そのものを否定するわけではなく、それに向けて必死に手を伸ばそうとする自分自身を素直に肯定してあげられないような。
そうやって、どこかで予防線を張ってしまう。
それでも登場人物たちは過去からの、真っ直ぐに色々なものを信じていた頃の自分からの手紙に少し呆れながらも、高校生の自分に出来る精一杯を見つけ出していく。
もちろん、幼い頃に描いたぴかぴかな夢とは大きくかけ離れてしまっていることもあるけれど、それでもなんとなく昔の自分の期待は裏切りたくなくて。
表紙イラストは桜の木が描かれているのですが、読んだのが夏ということもあって、なんだか夏が似合うお話だな、と感じる。
きっと中高生の夏休みの、ふと時間を持て余してしまうような昼下がりに読むのがよく似合う。
夢うつつな、少しだけふわりと浮かんだ時間の中で、自分が踏み出すべき一歩をしっかりと見定めていく感じ。
10年後どころか、既に高校生活は過去のものとなった私ですが、登場人物たちの決意に背中を押されるような晴れやかな気分になる。
また、そうやって前を向いた登場人物たちのその後が別の主人公のお話にてちらりと登場したり影響を及ぼしたりするのが、読んでいてとてもわくわくする。
そして、
“君がやろうとしたことを、君自身が笑ってやるなよ”
という言葉がとても印象に残っている。
きっと今の私が、何にでもなれるような万能感を持ってぴかぴかの夢を抱くことはないだろうけれど、小さな事でも心の動きには出来るだけ素直でありたいな、と思う。