ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『十五歳の課外授業』

 『十五歳の課外授業』  白河三兎

十五歳の課外授業 (集英社文庫 し 55-3)

 

 

「今いちばんすきな作家さんを教えて」

と訊かれたらとしたら、間違いなく候補に入る白河三兎さんの作品。
ブログで他の作品については何回か言及したことがあるみたいですが、こうしていつもみたいに感想を書くのは初めてみたいで少しびっくり。
それくらいすきな作家さんです。
 
 
 
 
今回の主人公は、中学3年生の卓郎。
校内一の美少女のユーカと付き合っているものの、彼女の積極的な態度にいまいち迎合し切れない卓郎は、些細な嘘をつく。 
はじめは小さな嘘でも、ユーカや友人に対して嘘を重ねるうちに次第に八方ふさがりの状況に。
手のひらに刺さる棘を抜いて傷口から出血してしまうくらいならと、その棘の刺さる深さや数を増していくかのように、嘘でその場をしのぐのが染み付いてしまう。
 
そんな嘘も、教育実習生としてやってきた女子大生の存在をきっかけに次第に綻び始めてしまう。
 
全体的に卓郎の青さがとても目立つお話でした。
 
白河三兎さんの作品なので、きっと諸手を挙げて大団円、みたいな結末でないことは分かっていたけれど、少し寂しさを残しながらも登場人物にとって大事な何かだけはちゃんと生き続ける終わり方がすごくすきです。
 
いろいろと壊れて、崩れて、そうして初めて地が見えて、それだけはちゃんと熱を持ち続けているような。
 
 
そして、白河三兎さんのお話に登場する女性がいつも読後にいちばん心に残る。
『もしもし、還る』や『プールの底に眠る』、『私を知らないで』……等に登場する私がすきな女性たちも、生きるのが「上手」ではないものの、ちゃんと自分の芯だけはしっかりとしている。
 
今回お話の要となる教育実習生の薫子も、決して他人のお手本となるような生き方ではないけれど、どこか憧れてしまう。
 
 
 
その、お話全体の寂しさ、やるせなさと、一方で存在する変わらない熱量が、たまらなく私にぴたっとくる。
物語の雰囲気が明るすぎてしまうと、どうしても「ここではない何処かのお話」だと感じてしまう。
私のまたすきな作家の河野裕さんの受け売りですが、否定の否定による肯定なら、なんとか私でも手が届きそうな気がするのです。
 
実際に手が届くかどうかは別として、そういう落ち着いた物語を通してなら、希望を持てる気がする。