ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『愛の夢とか』

愛の夢とか』  川上未映子

 

愛の夢とか (講談社文庫)

 


私にとって以前に『すべて真夜中の恋人たち』を読んで以来になる、川上未映子さんの短編集。
 
 
静かで孤独でどこか内向的な雰囲気が印象に残る7篇の小説。
何気ない日常の中の「冴えなさ」が織り込まれていて、ふとその文章を指で撫でたくなる。
目の前のページに書かれていることと似たような感覚が私の中にもあるような気がして、私のことばと書かれたことばを溶かしてみる。
混ざり合ったその色をよく見ようとするけれど、明るい光のもとにさらした瞬間に乖離してしまう感じの。
「知っているような、気がする」という思いを常に抱きながら、決して派手に飾られることのない結末にどこか安堵してしまう。
7つの物語の終わり方もそれぞれで、静かに蓋を閉じてゆくものもあれば、気が付けば乗り過ごして知らない森に辿り着くようなもの、ひと匙の勇気や期待を持って踏み出したのに一歩も動いていなかったようなもの、などなど。
それでも一貫してどこか諦観に似た何かお話の底に眠っているような。
 
 
 
いちばん初めに収録されている『アイスクリーム熱』というお話なのですが、
 
うまく言葉にできないということは、誰にも共有されないということでもあるのだから。
つまりそのよさは今のところ、わたしだけのものということだ。
『アイスクリーム熱』
 
この部分が特にお気に入りです。
作中の言葉を借りれば、『何も言ってないのとおなじような言い回しでしか記録することができない』のに、どうしてこのお話の主人公も私も、感じたことをこうして言葉にして残してしまいたくなるのだろう。
多分、ありきたりな言葉で多少汚してでも今感じていることを残して置きたいのだと思う。
十中八九、ここに書いたことは来年辺りにはすっかり忘れてしまうし、今ある感性はいつかは必ずしんでしまうものだから。
今、中学生や高校生の頃に書いたものを見返すととても目の覚める言葉が並べられていて色々とびっくりする。
 
 
 
そして『三月の毛糸』の
「前向きなんじゃなくて、曖昧なだけなんだよ」と僕は言った。
「君みたいに、あまり極端な感じかたをしないというだけのことなんだ。自分の身に起こることや、自分がしようとしていることを、つきつめて考えようと思わないんだよ」
「それは、最初からそうなの」
「そうだよ。悪いも良いもないと思ってるから、楽なんだよ」 
『三月の毛糸』

 

この会話の感じ。
この、踏み出さない感じがすごくすき。
以前にどこかの感想の記事でも書いたと思うんですが、『最後の恋 MEN’Sつまり、自分史上最高の恋』というアンソロジーに入っている橋本紡さんの『桜に小禽』というお話がたまらなくすきで、ふと『三月の毛糸』のこの会話で『桜に小禽』を思い出しました。  

 

最後の恋 MEN’S―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
 

 

 そうやってどこかパッとせず、諦めてしまっている自分をどこか冷めた目で客観視している感じがたまらなく刺さる。

本当に何とも言えないのですが、漂う寂寥感にも似た何かがすごく馴染むのです。
 
 
 
気が付けば川上未映子さんのちょっとした言葉遣いに揺さぶられている自分がいて、このままエッセイの『魔法飛行』も読んでみたくなる。
『すべて真夜中の恋人たち』でも書いた気がするのですが、イラストや写真が溢れる昨今の表紙デザインの中で、文庫版の『魔法飛行』のシンプルなデザインが3本の指に入るくらいすきなのです。

 

魔法飛行 (中公文庫)

魔法飛行 (中公文庫)

 

 

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