大きく息を吸って、深く深くのんびりとたゆたいながら読むような、そんな雰囲気の作品でした。
主人公の目や手足を通して、ゆっくりと作中の時代、風景に溶け込んでゆく感じ。
新聞社の新米記者として働く英田紺のもとに様々な妖しげな案件が舞い込む。
上司の指示により、神楽坂にある箱屋敷と呼ばれる館に足を運んだ紺は、うららと名乗る少女に出会い、以来、足繁く通うことになる。
開けない箱も閉じられない箱もない、という不思議な少女に導かれるようにして、紺はちょっとした謎を通して己自身の存在を深く見つめなおしていく。
タイトルにも箱娘、とあるように、とても「箱」が象徴的に登場する物語でした。
文字通り、閉じられた呪いの曰く付きの箱。
劇場としてのハコ。
文筆箱。
閉じられた空間、密室という名の箱。
様々な物事の線引きがあやふやで、
あるいは、
理由なき慣例的な線引きが強く残る時代に生きる紺は、その中でひとつひとつ揺るぎない真実を手繰り寄せようとする。
意図的であるにしろ、そうでないにしろ、きっと閉じられた箱には人の思いが込められている。
その箱の開け方も、箱によってそれぞれで、開けた先に幸せが待ち受けているかどうかは、きっと誰にも分からない。
開かない箱。
ということで、少し、中村航さんの『100回泣くこと』というお話を思い出しました。
記憶が正しければ、このお話にも思いを無理やり閉じ込めた箱が出てきたので。
- 作者: 中村航
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/11/06
- メディア: 文庫
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物語を通して紺の箱を開いてしまう事に対する迷いや葛藤がとても印象的でした。
紺自身、内に秘めたるものがあるが故に、常に「箱」を開いてしまった後の誰かの立場や気持ちを考えている。
なんとか、開こうとした。彼女の心であったり、言葉であったり、閉じてしまった何かを。
p.218
この一節がすごく紺の人柄を表現しているようで、言葉を閉じる開く、という表現も合わせてお気に入りです。
そんなあやふやな紺の輪郭を少しずつ撫でながらはっきりさせるように、うららは手解きをする。
決して強力な何かで引っ張ってゆくのではなく、あくまでも寄り添いながら紺自身が自分なりの選択をするのを待っている。
そんな不思議なほどに落ち着いた雰囲気のうららですが、うららは自発的に箱屋敷の外から出ようとはしない。
きっと、出ることを許されていない。
それに加え、警察という組織よりも上位の超法規的な力を持っていて、うららの立場にまつわる真実がとても気になります。
うららの身の回りにどんな思惑が動いていて、うらら自身、何者であるのか。
これから先のお話で少しずつ、解き明かされていくのでしょうか。
甘い物好き、という設定がすごくマッチしていて、
完全な私の趣味で言えば、言葉少なに甘い物を頬張るうららをひたすらに眺めていたい……。
次巻以降も心待ち。