『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 今日を迎えるためのポタージュ』 友井羊
このミステリーがすごい!大賞作家書き下ろしBOOKにて連載されていることを知らず、こうして続編を読むことができるとは思わなかったので、とても嬉しいです。
この作品、本当にスープの描写がすごく丁寧で、初めて名前を見るようなスープも、文章から匂いや温度や舌触りすべてが伝わってきます。
何よりもスープの在り方が登場人物の渇いてひび割れた心に寄り添うようで、とてもやさしい。
この物語にスープが登場する度、お腹が空く、というよりも、そんなスープを誰かに作ってあげたくなります。
読み返して、登場してきたスープの名前と材料をメモしたいくらい。
今回は、スープ屋しずくを営む麻野さんの亡くなった奥さんの過去にまつわるお話もあり、謎解き要素が気になる、というよりどんなスープが麻野さんの物語を繋ぐのか気になってついさくさくと読み進めてしまいました。
前回、透明なクラムチャウダーが登場したように、今回も一風変わったミネストローネが登場します。
このミネストローネの謎が解けるのは、最後の最後なのですが、このエピソードもすごくあたたかい。
エピローグとして少し取り扱われるだけなのですが、今回のお話の中でいちばん印象に残っています。
栄養そのものを摂取しているような気がしてきた。
という表現の通り、心身ともに沁み渡り登場人物たちがゆっくり温度を取り戻していく感じが本当に好き。
それから、ジビエ料理にまつわるお話もあるのですが、狩猟の様子や、鹿肉や猪肉の食感が私にとってあまり馴染みのないもので、とても興味惹かれます。
……ああいう肉って、基本的にどこで流通しているんですかね?
そんな扱いの難しそうな肉を当たり前のように適した調理法でスープに仕立てる麻野さんも凄いし、そんな料理をふとした時に日常的に口にする機会がある登場人物たちがとても羨ましい……。
こんなスープ屋さんが身近にあったら是非通い詰めたい。