ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『ケーキ王子の名推理』

『ケーキ王子の名推理』  七月隆文

ケーキ王子の名推理 (新潮文庫nex)

 

 

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』で大きく話題になった七月隆文さんの作品。

『君にさよならを言わない』に続き、七月さんの作品を読むのはこれで3作品目になります。

そして、今回の装丁イラストは『orange―オレンジ―』の高野苺さんというなんと贅沢な組み合わせ......。

 

 

 

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を読んだ時にも思ったのですが、七月さんの書く作品はいい意味で軽やかで食べやすいので、普段本を読まない人たちが読書に興味を持つ入り口になればよいな、と思います。

今回の作品も、 本当に読みやすくてタイトル通りケーキを平らげるようにぺろりと美味しくいただきました。

 

 

 

今までの人生で悲しいことがあっても、その度に美味しいケーキに救われてきた女子高生の未羽。
あまりのケーキバカっぷりに他人に引かれてしまう一面も。
そんな未羽が失恋により傷心している最中、ふらりと立ち寄ったケーキ屋さんでパティシエ修行をしている校内一のイケメンの颯人に出会う。
始め、冷たく高圧的な態度をとる颯人だけれど、ケーキを前に色気より食い気に走る未羽と自然と打ち解け、柔らかい表情を時折見せるようになる。
......そんなまるで少女漫画のような物語が、全体的に明るくサクサクとしたテンポで進んでいきます。
 
タイトルに名推理(スペシャリテ)とあるように、ケーキにまつわるちょっとした謎解きもあり、章の終わりごとにケーキのイラストとその由来等がまとめられていて、読んだ後はちょっぴり誰かに自慢げに話をしたくなってしまう。

作中に登場したフランス人女性がやっていた、両手の人差し指でバツ印を作るジェスチャー。
この本を読んだ人たちの間でこっそりやりたい。
人知れず、にやっとしていたい。



 
そして何より。
お腹が空きます。
 
紅茶とケーキが今すぐ欲しい。
 
 作中には登場しなかったけれど、私の好きなケーキはザッハトルテだということはお伝えしておきます。


それこそショートケーキやティラミス等有名なケーキもあれば、スペキュロスという名のちょっとしたクッキーまで登場します。
私、この作品を読んで初めてスペキュロスを知ったのですが、シナモンやクローブナツメグなどが入ったスパイスクッキーってなにそれ、絶対美味しい。

ください。
 
 


 
私が何よりお気に入りな場面は、未羽が颯人のケーキつくりの作業を傍で目を丸くしながら見る場面。
誰かが料理をしている手元や姿勢を見つめる眼差しが何よりすきなんです。
 
まるで子供のようなわくわくとした眼差しで見つめる未羽と、その視線を邪険に感じながらも意地でも美味しいケーキを作ろうとする颯人。

この、見ていられるのはどこか気まずいけれど、今に美味いもの食わしてやるから待ってろよ!  感がたまらないのです。
……共感していただければ幸いです。




結末もほんのり前向きな終わり方で、きっとこの後も未羽と颯人のどこか調子外れな関係は続いていくのだと思うと、なんだかふわっと顔が綻んでしまいそうになる、そんなお話でした。




ザッハトルテが出てくる続編がいつか刊行されることを夢見て。