ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『カタナなでしこ』

『カタナなでしこ』  榊一郎

 

カタナなでしこ (講談社タイガ)

 

榊一郎さんの作品を読むのは今回が初めてで、この作品を手に取るまであまり聞き馴染みがなかったのですが、主な著作に『神曲ポリフォニカ』や『アウトブレイク・カンパニー』等、名前を聞いたことある作品がずらり。
いつか読める日がくればいいな、と思います。
積読本からの視線を感じる……。
 
 
 
 
 
 
カタナと女子高生という一風変わった組み合わせですが、現代を舞台にとても丁寧に描かれた青春小説でした。
カタナ(刀剣)に詳しくなかったのですが、主人公たちと一緒にカタナのつくりや用語に関してゆっくりと馴染むことができました。
 
 
祖父の家の土蔵を整理していた途中に見つけたひと振りの刀身をきっかけに夏休みの補講のグループワークと称して、たまたま班分けで居合わせた4人の女子高生がカタナの完成を目指していく。
読み始める前は、あらすじだけですっかり刀鍛冶、刀匠をイメージしていたのですが、彼女たちが作るのは刀身以外の鞘や鍔(つば)やはばきなどのカタナの拵(こしら)え。
(ここぞと覚えたばかりの言葉を使う)
 
 
はじめは乗り気でなかった彼女たちも拵え作りを通して、様々な人の思いに触れる度成長してゆく。
 
 
祖父をどこか鬱陶しく感じてしまい関係がギクシャクしてしまった少女。
 
ネイルアーティストを夢見るも自分の覚悟が揺らいでしまった少女。
 
どこか引っ込み思案で消極的で地味な自分に自信が持てない少女。
 
クォーターで見た目が西洋人っぽく家族や周りの人間の中で浮いてしまうことを気にする少女。
 
 
 
仲間同士や出会った人たちの言葉を通して、彼女たちなりの決意や未来を見据えていくのがすごくよい。
高校生としての見通しの甘さも柔軟さも立ち直りの早さも、短所も長所もすべてがきらきらとしてぎゅっと詰まっている。
カタナの拵え作りという題材も物珍しさが際立ちすぎることもなく、間違いなく彼女たちの成長物語なのだと実感する。
 
 
 
 
拵え作りもカタナについてもすごく説明が丁寧で、特に登場する職人たちの思いに関してもあとがきによれば実際に榊一郎さんがお話を聞いて書かれているみたいです。
大昔に比べればそれこそカタナの需要はほとんどないけれど、カタナに限らず職人たちのもつ、魔法の手にすごく惚れ惚れしてしまいます。
 
卓越した科学技術は魔法と区別がつかない、という有名なことばがありますが、古くから長い時間を経て今も残っている技術も魔法たり得ると思うのです。
 
 
等身大で拵え作りに向かう彼女たちをみていると、人の繋がりから何の気なしに魔法に触れていることをちょっぴり羨ましく思う。