ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『サマー/タイム/トラベラー1』

サマー/タイム/トラベラー1


神保町で行われたブックフェスティバルの早川書房のブースにて、他のお客さんが手にするのを見て、タイトルも著者も初めて目にするものでしたが、勢いで。

時間SFと夏、そして学生っぽい少年と猫のイラスト、ってだけで頭の中でいろんな物語がふわっと駆け巡るので、いろいろとずるい。
目の前のお客さんも買ってしまうくらいだから、私も買ってしまえ!  という何かにつけて購入する理由を正当化。
……どんな理由をつけようとふわっと興味惹かれた時点で既に負けているのです。

タイトルにナンバリングされていますが、次巻で完結ということで合わせて買いました。


主人公の卓人が幼馴染の悠有について、過去を振り返る形で始まる。
頭の回る高校生というだけで、町を飛び出すことができないことに、現状を変えることができないことに、閉塞感を抱えていた卓人。
偶発的な悠有のたった3秒先の未来への時空間跳躍をきっかけに、卓人悠有含む5人の高校生たちは、夏休みに〈時空間跳躍少女プロジェクト〉を始める。
表向きはただの時間潰し、好奇心の赴くまま、という形で始められたプロジェクトだが、どうやら参加者それぞれが思惑を抱えているようで。

今回はその思惑が語られることはなく、卓人が歪な未来を仄めかす形で話が進んでいきます。


悠有の力の正体を明らかに、自在に操ることができるようにすべく、ただひたすらに5人が過去の時間SF作品について語り尽くす場面があるのですが、私の知らない作品名、著者名がたくさん出てきて改めて、他の作品もすごく読んでみたくなりました。

時間SFだけでなく、その他の作品についても多岐に渡ってちらりと触れられていて、私の知っている“ネタ”があると何か趣味を共有できたようですごく嬉しかったです。
比喩でなく、読みながらすごくにやにやしてしまいました……。

まず5人が活動拠点にしている喫茶の名前は〈夏への扉〉だし、そこには猫も飼われていて。
梶井真治さんの名前が出てきたときには、『クロノス・ジョウンターの伝説』読まなきゃ……ってなったし。
たんぽぽ娘』が出てきたときには、つい有名な序文思い出してしまうし。
大好きなサン=テグジュペリの名が出てきただけで嬉しかったし。
悠有の「高度に発達した初夏は、梅雨と区別がつかない」というなんとも言えない冗談には、思わず笑ってしまったし。
北村薫さんの時と人三部作にも触れられていて、読み返したくなったし。

何よりも一番予想外の不意打ちを食らって思わず小さく声を漏らしてしまったのが、“ミカンの皮が大好きな縞々模様の竜”という何気ない一節!
『エルマーのぼうけん』から始まるあのシリーズ、小さい頃に読んですごく好きな作品なんですよね。
まさかこんなところで再会するとは思わなくて。
はっきりと言及されていないのに、「エルマーだ!」とすぐにピンと来たのも嬉しくて。






それから卓人にとってどこか鈍臭くて守ってやらなくちゃと思っていた悠有が、どんどん遠い存在になってしまう。
そんな卓人の戸惑いや焦りのようなものが、私好みの切なさで。


ことばにはしないけれど、自分がいなくちゃダメなんだと思っていた悠有が卓人の思いとは別にひとりで前を向いていく。
そんな中、卓人自身は賢いというだけでひとりの高校生であることには変わりはなくて。

ぼくは置いてけぼりになったんだ。三・二秒以下、十八・四メートル以内の範囲で。全宇宙と一緒に。

この一節がとてもぐっとくる。
悠有の力についてのことを淡々と説明しているようで、置いてけぼり、というのが単に時間のことだけを言っているのではない感じ。




この先、どんな結末を迎えるのかとても気になります。
卓人の仄めかす未来や、5人の高校生がどんな選択をするのか。