『君と時計と嘘の塔』 綾崎隼
タイムリープミステリ四部作の第一弾。
ブログとして記事にはしていないのですが、数作品続けて時間SFものを読んでいたということもあって、その流れで今月刊行のタイガ作品のうちこの作品から読もうと決めました。
※以下、ほんのり内容に触れています。未読の方はご注意ください。
時空間を行き来するという非日常性だけでなく、多くの場合そこには後悔という感情が描かれるので、時間SFもの小説、結構好きです。
夢のような設定にわくわくしならもどこか打ちのめされたいと思ってしまう。
何が心残りで、何を変えたくて、未来へもしくは過去へ行きたいと望むのか。
この物語は、主人公の綜士が過去についた嘘を後悔するところから始まる。
ただそんな後悔をよそに、綜士自身も気付かぬうちに世界の時間は巻き戻りかたちを変える。
気が付けばたったひとりの親友の存在が世界から消えてしまっていた。
……今回のお話は特定の期間を繰り返すループもの。
深い絶望と対峙する度、自分の意思とは関係なく、繰り返す。
犠牲なしに繰り返すことは出来ず、やり直す度、自身の身の回りの大切な人の存在が消えてゆく。
とても「おもたい」設定だと感じました。
綜士の過去の嘘がいつまでも自身を縛り続け、自分の行動が浅はかに思えてしまい、学校生活に対して他人に対して閉ざしてしまう。
きっと、そうやって自分って薄っぺらだよね、と自ら見下げて生きていくことが、彼にとっての過去の嘘に対する免罪符のようなものであったと思うのです。
綜士ほどではないけれど、自嘲気味になって、少し不幸だな、なんて思うことはきっと誰にもあって。
そうやってなにかに浸っていたい気分になることはきっと誰にもあって。
それでもループを断ち切るには、否が応でも、前を向くことしか許されなくて。
ただでさえ、自分がわからなくて、扱い兼ねていたのに、そんな「自分」にかまっている場合なんかではなくて。
ちょっぴり母親とうまくいかなくて。
ちょっぴり学校生活に馴染めなくて。
ちょっぴり自分に自信がなくて。
自分のことばに負けてしまいがちで、深海を泳ぐように暮らしていた中、この怪奇な状況に巻き込まれてしまう。
その「ありがち」なふしあわせから、もっと身動きが取れなくなってしまうように感じました。
もしかしたら、人によっては、その変化は前を向くために大切で劇的なものであるのかもしれないけれど。
綾崎さんの作品、以前にひとつだけ読んだことあるのですが、主人公の「ぐるぐる」した感じが、とても綾崎さんぽい、と感じました。
そして、お話の中で綜士のループを断ち切る鍵は、好きな女の子、芹愛の死を防ぐこと、とされています。
芹愛が死に至る理由ももちろん気になりますが、彼女がうちに秘めている感情がとても気になります。
綜士の嘘について、どう思っているのか。
その他の登場人物もいろいろと、きっと、明かされていない嘘をついているように思えて、続きが気になります。
それから、それから、時空を超えるきっかけとなった大元の原因について明かされるのかどうかも。
お話全体の流れとしては本当に四部作の序章、という感じで、いろいろと次の展開に向けて網を放るかたちで終わっていたので、残り三作品でどのように広がり収まるのか楽しみです。
そして、綜士の後悔の行方も。