たった2人だけの文芸部員。
かつて覆面「美少女」小説家として世間を騒がせた高校二年生の少年、井上心葉(このは)。
文字通り本のページを千切って食べる食いしん坊な三年の先輩、天野遠子。
三年生の天野遠子先輩は、文学部の部長で、物語を食べる妖怪だ。
水を飲みパンを食する代わりに、本のページや書かれた文字を、美味しそうにむしゃむしゃ食べる。
本文より
一番のご馳走は、大好きな人が思いをしたためたラブレターという遠子先輩の食欲を満たすため、巻き込まれる形で校内の恋愛相談をすることになった心葉くん。
恥の多い生涯を送ってきました。
(太宰治作品、ほとんど読んだことないなんて言えない……)
『人間失格』にいたく共感し、器用に上辺だけ取り繕い、あたかも周囲に馴染めているかのような薄っぺらな自分が何よりもきらいな、死にたがりの道化〈ピエロ〉。
持ち込まれた恋愛相談とそんな道化の独白と。
心葉くんの人生観に陰りを落とす大きな要因となっているであろう、かつてのペンネームと同名の美羽という少女の存在について、今回深く触れられることはないのですがとても気になります……。
既に亡くなってしまった彼女との間に何があり、心葉くんは一体何を悔いているのか。
それからあまりにも遠子先輩が太宰作品含め、いわゆる古典作品について美味しそうに語るので、めちゃくちゃ読みたくなる……。
※以下、物語の内容に大きく振れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
先ほどまで私が書いていた感想の雰囲気とがらりと変わりますが。
最後の屋上にて心葉くんが千愛ちゃんに手を伸ばす場面、私としては読んでいてとても苦しかったです。
もちろん純粋に助けたいという気持ちはあったのだろうとは思いますが、心葉くんは何よりも美羽の死に縛られすぎている。
過去の自分への救済として目の前の似たような境遇の少女に手を伸ばしているのではないか、その言葉は誰のためのもの? と、命が揺らぐ中でのやり取りの危うさにどきどきしてしまいました。
千愛ちゃんが心葉くんのことばがどこからくるものなのか気が付いた時、
心葉くん自身がひとりよがりな感情に気付き、そこから仄暗い感情を見出した時、
どうなってしまうのだろう。
そこまで迂遠に考える必要はないのかもしれないけれど、今後、心葉くんは美羽との過去とどのように向き合っていくのか、どのように決着をつけ消化していくのか、気が気で。
物語の導入のしゃきしゃきと瑞々しく、噛むのが楽しくて仕方がないような雰囲気と打って変わって、最後は程よい苦味を引くような結末に。
とても美味しくいただいたので、大事に大事にのんびりシリーズを追いかけていきたいです。