ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『究極の純愛小説を、君に』

『究極の純愛小説を、君に』  浦賀和宏

究極の純愛小説を、君に (徳間文庫)





今回は浦賀和宏さんのこちら。
浦賀和宏さんは『彼女は存在しない』を以前読んだ時に衝撃を受けて以来、ぽつぽつと作品を読んでいます。
究極の純愛小説を謳うタイトルなのですが、浦賀和宏さんの作品を読んだことがある方ならば分かると思うのですが、浦賀和宏作品にして普通の「純愛小説」であるはずもなく。
書店でタイトル見かけた時、思わずシニカルな、というか苦い笑みを浮かべてしまいました(笑)
へぇ、浦賀和宏さんが純愛小説かー、ふうん、なるほどね、みたいな。





◇うん、まあ、ハッピーエンド?
私の中では、浦賀和宏さんの作品はほとんどがとんでもない結末を迎える、という印象なのですが、今回はまあ、ハッピーエンドなのかな……。
3つの章から成り立っていて、準備稿、改訂稿、決定稿と続くのですが、読んでいる最中の「?」が飛び交う感じは、最近読んだ中では法条遥さんの『忘却のレーテ』っぽいと思いました。


文芸部に所属する八木剛が山中湖畔へ部活の合宿へ行く中、ライフラインが寸断され陸の孤島と化したペンションで、仲間の部員達が次々に惨殺されてしまう。
そして八木剛自身も殺人鬼に追い詰められてしまい……。

そんかサスペンスホラーかと思えば、いきなり、場面は変わり。

失踪した八木剛の行方を探るとある保険調査員の話へと移り、条件を揃えればエンターテイメント性が高い小説を生み出すことのできるウラガシステムを巡る話となる。
(なんとなく野崎まどさんの『小説家の作り方』というお話を思い出しました。)

物語の後半でなんとなく話が分かりかけた中、最後の決定稿でまた高校生の八木剛の話に戻ってしまう。

ちゃんと理解ができるようになるのは、本当に最後のページ。
どう受け取るのが正しいのか分からないのですが、シュールさに思わずふふっとなってしまいました。

取り敢えず、「純愛小説」ではなく、『究極の純愛小説を、君に』という本であることは確かです。



◇めちゃめちゃメタい。
※以下、直接的な内容に触れています。ネタバレを避けたい方、未読の方はご注意ください。



ウラガシステムの名から分かるように作中に浦賀和宏という名の作家が登場します。
その中で、『生まれ来る子供たちのために』という作品が登場し、登場人物たちに言いたい放題言われるのですが、どうやらこの小説、実在するみたいですね、それもちゃんと浦賀和宏さん自身の作品として。

それから嫌な終わり方をする作品ばかりだから、爆発的には売れないというような描写も……それがあまりにも自虐的すぎて(笑)


そんな浦賀和宏に代わり小説を生み出すというのがウラガシステムであり、ハッピーエンドの小説を作ろうとする中、齟齬が生じバッドエンドに向かってしまう物語をなんとか修正しようとする、登場人物たちの動きを描いたマーク2による作品なのですが。



準備稿でまず、琴美が死んでしまうので矢沢が煙草を吸い季節が冬である必要があった。
したがってマーク2は、その要素を取り入れて書き直し。

改訂稿で、ウラガシステムはなんとか八木剛のサスペンスホラーをハッピーエンドに向かわせようとするも、琴美の命は助かるが、結果的には作中の浦賀和宏が童貞でないが故に八木剛のサスペンスホラーはハッピーエンドに成り得ず、琴美たちの物語もバッドエンドになってしまう。

そこで、浦賀和宏が童貞であるという設定に変更して書き直された物語が決定稿となる。


何がややこしい、って、
ウラガシステム・マーク2を使って、
「ウラガシステムを使って八木剛の物語をハッピーエンドに向かわせようとする琴美たちの物語」
をハッピーエンドに向かわせようとする物語
を、実在の浦賀和宏さんが書いている、という。




それを600ページ弱に渡って綴っているのだから、やっぱり浦賀和宏さん、どこか捻くれているのかもしれない(褒め言葉)です。
確かに好き嫌いは分かれそうですが、私は結構好きだったりします(笑)