4人の作家さんが時をテーマにお話を書いたアンソロジー。
『時の罠』、というどこか不穏なタイトルですが、作品の雰囲気は全体的に前向きでした。
時は気付かぬうちにいろんな感情を置き去りにするし、幼い頃に描くいた程未来は単純ではない、というような意味での「罠」なのかな、と。
『タイムカプセルの八年』 辻村深月
大学准教授の父親とその息子、幸臣の関係を描いたお話。
主人公である父親は、自分の好きなことを研究出来れば十分で、家庭を顧みることのないどこかズレた人物。
そういう父親もいるのかな、と思いながらも流石にクリスマスのエピソードはあんまりだと思ってしまった私は、きっと両親に感謝すべきですね。
そんなズレた父親ながらも、息子にまったく関心がないというわけでは無い様子。
小学校の先生に憧れて、自分も教師になりたいと語る幸臣の夢を壊してしまいたくなくて、不器用ながらも行動を起こします。
多分、クリスマスの一件があったからこそ余計に何か幸臣の夢を守りたかったのかな、と。
幸臣がタイムカプセルに埋めた20歳の自身に宛てた、「もう先生になりましたか」という手紙を見る場面があるのですが、確かに幼い頃に描いた大人はあまりにも遠くて“なんでもできる”と、私も思っていました。
そんな幼い頃の自分の期待を背負えるかと言われると、なんとも……(笑)
ただそんな私をあんまり落胆させたくないな、とは思っていますよ? とりあえず、思うだけには(笑)
『トシ&シュン』 万城目学
学問、芸能の神様の願いを叶える手伝いをすることになった縁結びの神様のお話。
俊の小説家になりたいという願いと瞬の役者になりたいという願い事を叶えるべく、縁結びのがお手伝いをしていく。
万城目学さんらしく、どこがほんわかとした雰囲気の作品。
小説家としても役者としても、いつまでもなんの成果無しに夢見がちなままではいられないという意味での「時」の残酷さやそこから来る焦り。
例えきっかけを得ても自身が1人の小説家や役者にふさわしい器になるには時間がかかるという、どうしようもないもどかしさ。
そういったものを鋭くではなく、丸く丸く切り出したような印象でした。
『下津山縁起』 米澤穂信
いきなり過去の文献からの引用のような出だしで驚きました。
そのまま、人と下津山の関係にまつわる話、人以外の知的生命体の研究にまつわる話が時代を追いながら引用の形で書き連ねられるのですが、結末に思わず笑ってしまいました。
あんまり書くとネタバレになってしまうので避けますが、書き出しにびっくりせず最後までしっかり読んでみて欲しいです。
『長井優介へ』 湊かなえ
湊かなえさんの作品を読むのはこれが初めてでした。
作品のいくつかが映像化されていて、評判は聞いていたので、この短編もどこか嫌な感じで終わるのかな、とドキドキしていました。
こちらも辻村深月さんと同じくタイムカプセルを題材にしているのですが、こちらは友情を描いたお話。
主人公の優介は、虐められていた小学校時代の同級生に会うのは気乗りがしないものの、タイムカプセルに埋めたものを手に入れたくて、小学生時代を過ごした土地へ向かいます。
読み始め、優介の境遇に理不尽さを感じていたのですが、かつて乱暴に絡まったまま長い間放置されていた糸が少しずつ解かれていくように、最後は希望を見出すような展開に少しホッとしました。
湊かなえさんの作品、ということで身構え過ぎただけかもしれませんが(笑)