ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『校庭にはだれもいない』

 『校庭には誰もいない』  村崎友

 

校庭には誰もいない (角川文庫)

※完全なネタバレには気をつけてますが、作品の内容に一部触れているので、未読の方はご注意ください。

 

最初は角川文庫のTwitterアカウントのつぶやきでちらっと見かけたのがきっかけだったんですが、帯の“あだち充本格”の一節に惹かれて手に取りました。

 

 

 

 

すべて読んだわけではないですがあだち充作品が好きで、中でも『ラフ ROUGH』がいちばんのお気に入り。

好きな場面についていろいろ話をしたいくらい。

 

水泳を題材にした漫画で、主人公の大和圭介が大会前に周りの人に無駄に期待を持たせないように、自身の調子の良さをひた隠すんですが。

二ノ宮亜美の「ほんじゃ、わたしだけにしとくね、変な期待は。」っていう台詞がすごく良い……。

 

 

 

 

 

そんな感じで、あだち充作品のように心の端っこをきゅっと掴む小説なのかな、と思いわくわくしながら読み進めていきました。

 

「密室」をテーマにした4つのちょっとした謎解き連作短編で構成されていて、主人公の葉音梢が高校生活を通して野球部のエースに恋い焦がれる様子も描かれています。

 

本当に帯の“あだち充本格”しか頭に無かったので、しっかりとしたミステリー要素があることに読んでみてびっくり。

 

春夏秋冬の季節の巡りに沿ってひとつずつ謎が生じるのですが、個人的にはいちばん最初の「春のしずく」が印象的。

 

 

 

 

入学式前に梢の所属する合唱部の入部希望ノートに「中村雫」という名前が記されているのを見つけるところからお話は始まります。

 

梢の合唱部の先輩に当たる宮本耕哉がいわゆる探偵役なのですが、先輩曰く、「中村雫」という名の少女は存在し得ない。

 

たまたま高校にいないのではなく、新入生、在校生、卒業生どの場合であっても、「中村雫」という名の少女が存在することはあり得ないという。

 

 

読んでいく中で「中村雫」という名前が出てきた時に、頭の中で「耳をすませば」の月島雫の名前も浮かびました。

 

耳をすませば」も人気な作品ですよね、(月島)雫がもがきながら小説を書き、読んでもらった感想を不安気に待つシーンが好きです。この時の雫の心境を考えると、すごくぐっとくる。

 

 

小説の話に戻しますね。

先輩の推理によると、「中村雫」が存在し得ないのと同じ理由で月島雫も存在し得ないことになってしまうのです。

 

だからなんだ、って言われたらそれでおしまいなんですが(笑)

 

そんな風に別作品のことまで考えていろいろわくわくしながら読めたことも含めて、最初の春の短編がお気に入りです。

 

 

 

春以降も合唱大会や文化祭を迎えるとともに梢の恋心もすくすく育っていくのですが、それだけでは終わらないのがこの作品。

 

謎はすべて探偵役の宮本先輩が解明してきたのですが、最後の最後で先輩の推理とは違う真実が明かされます。

 

春から始まる一連の謎がすべて緩やかに繋がり、見方がくるりと変わります。

 

あだち充作品のような幸せを匂わせる結末を夢見て、ほんのり甘いと思って口の中で転がしていた飴玉を、最後の最後にがりっと噛んだらじわじわっと苦味が広がる感じ。

 

いい意味で、あだち充本格という期待を裏切られた作品でした。