『リアクト』 法条遥
『リライト』から始まる「re」シリーズ(勝手に命名)の3作目である『リアクト』。
前作の見え方が大きく変わる、という意味ではこの『リアクト』がいちばん面白いと思います。
「バッドエンド版時かけ」をバッドエンドにしないために、4人の少女が動きます。
以前に『リライト』『リビジョン』についてもくどくど書き連ねているので、よろしければ足を運んでください。
繋がりや読み比べの参考になれば幸いです。
『リライト』について
『リビジョン』について
『リライト』『リビジョン』『リアクト』のネタバレを含んでいます。
未読の方、ご注意ください。
時を駆ける少女――ホタル
1992年の秋に起きた地震の原因を調査しにきたホタルは坂口霞が閉ざされた鏡を拾い、坂口穂足の名やホタルが探している人物と、とある本が密接に関係していることを知る。
未来の機械を用いても本の存在を見つけることはできなかったが、岡部蛍の『リライト』と関連していることを知り、小説の結末であるリライト(書き換え、の意)が完了する2002年へ跳ぶ。
そこで小説通りのことが起きていることに驚くホタルは2002年の雨宮友恵にリライトを回避するために、破いた高峰文子の『時を翔る少女』を2311年へ届けるよう告げられる。
そして雨宮友恵はホタルの未来を仄めかし、ホタルの前から去って行く。
その後ホタルは1992年の夏へ跳ぶ。
1992年の夏の時点で保彦を捕まえようとすると2311年に疾走するはずの保彦が存在しないことになり、タイムパトロールの存在自体もなくなってしまう、というパラドックスにより未来へ帰れなくなってしまったホタルは雨宮友恵の提案により、興津へ行った坂口穂足として雨宮家に居候することになる。
ホタルは友恵とともに話をする中で、『リライト』の通りになってしまうことを回避できることはなんとか説明がつくが、保彦が最初に夏を過ごすはずのクラスメイト、蛍が未来へ帰るために存在しなければならない『時を翔る少女』を書くはずの、大槻美雪という女子生徒は存在しないことに気付く。
蛍は友恵との相談の末、友恵から園田保彦のDNAを受け取った後、残された二つの錠剤のうちの一つを用い1997年の冬へ跳ぶ。
そこで一条保彦少年と夏を巡ることになる園田康彦のDNAが一致し、同一人物であると確認した後、ホタルは自身の記憶を偽り美雪として演じることになる。
『時を翔る少女』の記憶を持った誰かがこの時代に必要であったため。
『時を翔る少女』誰かの手によって出版される必要があったため。
ホタル自身が未来へと帰るために。
時を書ける少女――美雪
ホタルが未来へ帰るために美雪を演じる。
2000年の夏、大学生の美雪は成り行きで小説の新人賞に応募をするところから話は始まる。
後に相良(穂足)が美雪の担当編集者となり、高峰文子著『時を翔る少女』を書き上げることになる。
『リライト』に登場した美雪を演じていく中で、美雪はもともと存在せず美雪はホタルである、という変えがたい事実による違和感を生活の節々で感じ、無意識のうちに友恵と穂足の協力により矛盾を回避していく。
例えば、携帯電話の事を知っていたこと、ホタルとして現代に来た衣装である夏服の制服が捨てられないこと。
穂足は美雪の桜井家への弔問を回避し、友恵は美雪が酒井と踏み入った会話をすることを回避する。
時を欠ける少女――穂足
兄のお嫁さんとなる霞の姿や声を認識できないため、ともに生活をしていくのは不可能であろうと判断し、家を出て中学生活を過ごそうと決めた穂足は雨宮家に居候しながら岡部中学に通うことになる。
そこで出会った友恵と仲良くなった穂足はある日、友恵に坂口霞の姿見えないこと、霞は鏡を通して過去を見て未来から過去へ干渉する力があること、『リビジョン』での坂口霞の物語を友恵に話す。
(そこから友恵は、穂足が将来保彦と関わり合いを持つのではないかと考え、保彦が実在したら、こういうことも起こりうるのではないかという想定のもと、『リライト』を書き上げる。)
そして中学2年の夏の日。
穂足の運命を案じた坂口霞から、複雑な時に囚われてしまわぬよう、ある期間だけはクラスにいてはならないと告げられる。
またいち早く転校生である保彦の姿を見た友恵は、穂足に霞のところへ事情を聴きに行くよう促す。
そうして穂足が教室を抜け出した同じ夏、大地震が起き、穂足を残し両親と兄は亡くなってしまう。
実家のある興津にいる穂足に友恵から電話で『リライト』の通り、保彦が現れたことを聞く。
興奮冷めやらぬ友恵に対し、家族を失った現実を突き付けられた穂足は冷めた態度で突き放す。
実際に穂足の前に保彦が現れた際も、是が非でも自身が未来へ帰るために記憶の共有をしたいという保彦を一蹴する。
また、火傷の痕から赤ん坊であるはずの一条保彦と転校生の園田保彦が同一人物であると気付いた穂足はあわてて友恵へそのことを告げるために電話をする。
その後、東京の親戚の家に世話になることになり、『時を翔る少女』を本として未来へ残すため、相良穂足として大槻美雪の担当編集者になる。
時を賭ける少女――友恵
自身が『リライト』で書いたように実際に友恵の前に現れた園田保彦。
事前の穂足の電話での対応がひどく冷めたものであったがため、それ以上友恵の熱が高まることもなく、実際に保彦と会話を交わすことになっても現実的に物事を対処することができた。
自著の『リライト』を保彦に突き付け、今保彦とが行っていることは穴だらけであることを指摘する。
クラスメイトが『時を翔る少女』を出版するまで生きている保証がないこと。
携帯電話をとりに確実に10年後の未来へいく保証がないこと。
未来へ跳んだ際に携帯電話の準ずる通信機器を持って帰る保証がないこと。
もらった薬を誰にも見られない場所で使う保証がないこと。
そんな中、ホタルが現れる。
ホタルは逃げる保彦を追おうとするがため、未来へ帰れなくなってしまう。
そのため友恵は穂足の代わりとして未来へ帰れなくなってしまったホタルを雨宮家へ連れて帰る。
一条保彦が園田保彦であるかもしれない、という電話を受けた友恵は、ホタルが未来へ帰ることができるよう一条保彦と園田保彦が同一人物であると証明する方法を考える。
『リライト』の通り保彦とのキスを終えた友恵はホタルへ唾液を渡す。
その後、『リライト』で作家デビューをした友恵は幼い一条保彦に出会うため、ユキの見える御殿場へ引っ越す。
一条保彦と仲良くなった友恵は、幼い保彦に『リライト』の「嘘」を見抜くよう問いかける。
(ちなみに保彦は『リビジョン』の最後のシーンで『リライト』を手にしている。)
答えがわかったらラベンダーの錠剤を渡すという代わりに友恵は一条保彦の髪の毛をもらい、ホタルへ渡す。
そうして目の前でホタルが『リライト』の美雪を演じ始める時、友恵も『リライト』の友恵を演じ始めることになる。
同窓会まで『リライト』の友恵を演じ切り、未来から来たホタルへ『時を翔る少女』
を渡すまでに友恵はもう一度答えを聞くために保彦と出会う。
矛盾なく『リライト』の通りになるためには、一条保彦がどこかの時点で未来へ跳ぶ力を手にする必要があった。
現在と過去を矛盾なくつなげるためには、アルバムの矛盾がどこかで解決される必要があった、また保彦自身がそのことに気付くことができる必要があった。
正解にたどり着いた保彦に、友恵はラベンダーの錠剤を手渡す。
そして最後に「美雪を、お願い」と言い残し一条保彦に別れを告げる。
……。
読んでお分かりの通り、非常にざっくりとしたまとめ方をしています。
とりあえず4人の少女について簡単にまとめてみました。
最後の方とか割とやっつけで書いてしまったので、ツッコミ待ちです。
『リライト』との相互関係をもっと密に文章で突き詰めることができたらいいのですが、さすがに骨が折れそう。アルバムの事とか保彦の事とかいろいろ書きようはあるのだけれど。
疑問もちらほら。
『リライト』の記事の時に書いた、最初の一冊ってどうなったんだろ、って話。
結局きっかけの一冊は何でもよかった、みたいな感じで今作に書かれてて、わお、意外とあっさり。
ピンセットで小さな部品拾って、全体を俯瞰して適切なところへ当て嵌めていくみたい。
あーーここまで書くの疲れたーーーー
気が向いたら、ちょこちょこ増やします。
多分、その気が向くいつかは来なさそう。
何度四季を巡っても訪れなさそう。
ラベンダーの錠剤があったら、こんな記事を書き始めようと思った頃の自分を何とかして止めたい。
いや、待てよ。
仮に止めることができてしまったら、止めようと思っている今の自分が存在しないことになってしまう……?
つまり、なかったことにはできない……?
いや、他の誰かが同じ名前で同じ内容の記事を書く未来が存在すればよい!
……はい。
それでも最初に書いたように、『リライト』を知ったうえで『リアクト』を読むとすごく面白く感じると思うのです。
本書の美雪がホタルであることは、お話の終盤で知らされるのですが、その時のつながる感じは爽快でした。
しかも、友恵は真実を知りながらも、友人であるホタルを美雪として扱い続けなければならない、自身は『リライト』の友恵を演じ続けなければならないってなんかどこか悲しいな、と。
そして次回は、シリーズ完結編である『リライブ』について。
更新までしばしお待ちください。
またお時間のある方はぜひ足を運んでくださると嬉しいです。