『リビジョン』 法条遥
『リライト』『リビジョン』のネタバレを含んでいます。
未読の方、ご注意ください。
『リライト』での内容を前提に話を進めていく予定です。
『リライト』について以前にいろいろ書いているので、前作の内容を忘れてしまった方が思い出すのに少しでも役立てれば、と思います。
ヤスヒコ=園田保彦であり混同しそうなので、乳児の頃はヤスヒコ、中学生の頃 は園田保彦と表記。
今回の話は『リライト』に登場した園田保彦の出生にまつわる話。
舞台は『リライト』から数か月後、1992年の秋。
2つの鏡
この話には2つの鏡が存在する。
千秋霞の家系の女性が引き継ぐ、未来を見通せるという鏡。
千秋邦彦の家系の男性が引き継ぐ、形は霞の鏡に似ているものの、何の力もない鏡。
後々、邦彦の鏡には過去から未来へ送る力があることが判明する。
霞は鏡を肌身離さず持ち歩いていたのに対し、邦彦は父親の「成人したら売れ、子どもができたら買い戻せ」という言葉に従い、成人後一条家に売ったため、邦彦の鏡は一条家に存在する。
(鏡を売った理由は邦彦が所持しているとまずい、と語られている。保彦が時を巡ることになるためには、一条家に鏡が存在することが必要だったので、売られることになった、と勝手に解釈……。)
もともと千秋家の祖先である、平安時代のカスミとクニヒコのもとにあった一対の鏡が現代まで代々引き継がれてきた。
(と、ここまで書いてふと。カスミとクニヒコは異母兄弟である(p200)と語られているのに対し、霞と邦彦の母は同じであり同じ家庭で育ったと語られている(p206)。もしかしたら父親が違うのかもしれないが、それぞれ鏡を引き継いだ霞の母と邦彦の父親が結婚していたとするならば、その時点でそこそこ血が近いのでは? もしかしたら、そういう意味で、子どもができるまで鏡を所持しているのはまずい……? いやでも、もともとが一対の鏡であったことが知られていたかどうかは定かではないし、とここまで考えて、以降、この件について考えるのをやめた。)
(って、『リアクト』p.59読んだら霞と邦彦双子って書いてあんじゃん!)
過去現在未来に流れる時間はひとつながりであるため、鏡を通して未来を変えようとしたことにより、ヤスヒコが生まれないという世界へ形を変え始めてしまう。
千秋霞や邦彦の籍が会社からなくなる、など。
(もしくは、ヤスヒコが時をめぐることは決まっており、同時に霞たちの存在が消えることになってしまい、世界が書き換えられている途中、とか? 霞がヤスヒコを平安から現代に送った時点でリライト完了、みたいな?)
そのため千秋霞と邦彦は鏡の力を使って過去を探り、自分たちの記憶と違う部分を探して干渉することによって、ヤスヒコが存在する世界へ修正しようとする。
千秋霞と坂口霞
鏡で未来を通してみる力、ビジョンを介して会話をすることができる。
冒頭の10年前の霞とのやり取りでは、千秋霞が結婚していると主張に対して、高校生の霞は懐疑的。
ヤスヒコを産んだ霞は邦彦と結婚し、苗字が変わってないので疑うのはうなずける。
夢でビジョンを視たことにより、千秋霞がヤスヒコを助けようと三島病院に診せるはずのヤスヒコを県立病院連れて行ったことに起因し、時空が歪み始めてしまう。
三島病院へ行かなかったことにより、産婦人科として存在する必要がなくなってしまう。
そのため歯科になってしまうどころかその小さな歪が小さな影響を及ぼし、県立病院にてヤスヒコを診察した高橋医師は薬剤師として存在することになる。
ヤスヒコが再び高熱を出した際には、はじめに医師としての高橋に処方してもらった薬を得ることができなかったため、県立病院にとりあえず入院することによる。
ヤスヒコの未来を案じた千秋霞がビジョンを使ったところ、中学2年生のヤスヒコが同時に複数存在する未来を視る。
この時視た未来は(1992年の夏のことなのでヤスヒコにとっての未来ではあるが、霞にとっては過去)、『リライト』の園田保彦がクラスメイト全員に思い出を残そうと夏を繰り返している場面である。
ヤスヒコが産まれない世界に変えようとまわりが動き出す一因のひとつを、邦彦との結婚に見出した千秋霞は、坂口霞として結婚する未来や過去を修正し始める。
別の世界の霞たちが邦彦と結婚しなかった理由としては、そもそも邦彦と結婚してヤスヒコを産むビジョンを視なかった、邦彦とは血が繋がっているので常識的に考えて産まなかった、など。
複数の他の世界の自分と結婚をめぐるやり取りする中、突然1992年秋の坂口霞が邦彦との結婚を肯定し始める。
(p.132のあたり。この場面では、坂口と結婚しようとする1991年の霞とヤスヒコを産んだ1992年の霞の前に、1992年の坂口霞が現れる)
【なぜ地震が起きたのか】
坂口と結婚しヤスヒコの産まれない未来では、興津で大地震が起こってしまうと1992年の坂口霞が語り始める。
1992年の夏、坂口霞は書店員として静岡に出向いた際、『リライト』で同級生と本を探しに来た園田保彦と出会う。
園田保彦の探している本を見つけてあげたい、と鏡を使って本を探そうとする。
そのことにより園田保彦と高熱を出しているヤスヒコの存在が結びつき、園田保彦も熱に苦しみ始める。
(ちなみに、p.152桜井の未来が『リライト』で雨宮友恵に殺されるはずだったのが、「男」に殺される、という未来になっている)
様々な時間軸で千秋霞や坂口霞が複雑な干渉を起こしたため、鏡の力の許容範囲を越えてしまい、結果千秋霞の世界と坂口霞の世界が混在してしまう。
高熱で県立病院に運ばれた園田保彦は、高橋医師に対して「カルテは処分し、保彦はラベンダーの香りの薬を与えたら治った」ことにするよう改竄する。
その後同じ時空にヤスヒコと園田保彦を合わせまいとする強制力により大地震が起きてしまう。
(どうして92年秋のヤスヒコと92年夏の園田保彦が同じ場所に存在し得るのかわからない……けど、世界がごちゃごちゃになったんだから、時空がごちゃごちゃになるくらいなんともないよね! 多分、坂口霞が夏に清華を産んだという事実と千秋霞がヤスヒコを産んだという事実が混在? まあ、ここはお話の流れからしたら些末ごとだし……)
その際、ヤスヒコの口にラベンダーの香りの薬が口に入り、園田保彦とは邂逅し得ないであろう、1000年前の平安時代まで飛ばされてしまう。
そして、自分たちの祖先である平安時代からカスミからヤスヒコを奪い、1992年に送ったたために、千秋家の血が途絶えることになってしまい、千秋霞、坂口霞の存在はあり得ないということになり、霞の世界や存在は永遠に閉ざされてしまう。(『リライト』のラストのように、と勝手に解釈)
ヤスヒコ
遺伝的な疾患から高熱を出し、生後2週間にして死に直面する。
ヤスヒコの母である千秋霞が鏡の力を使い未来を先取りし、助けようとしたことにより、結果ヤスヒコは時空をさまようことになる。
園田保彦との邂逅を避けるため、平安時代に飛ばされてしまうが、千秋霞が鏡を用いて現代へ送ったため、邦彦が鏡を売った一条家の養子となる。
そして、最後の場面。
1996年に一条保彦は、4歳の誕生日プレゼントとして両親から岡部蛍の『リライト』を買ってもらう。
その帰り道にチアキ家のお墓の前で古びた鏡を拾う一条保彦。
おそらくその墓は平安時代に途絶えてしまった血筋のものの墓。
鏡は過去をうつすもの、鏡の中で泣いていたのはカスミかそれとも千秋霞か。
以上、『リビジョン』は『リライト』の重要人物である園田保彦の誕生にまつわる話でしたが、実は未来に産まれたわけではなくて、1992年(現代)で産まれたことがわかります。
じゃあ、なんで保彦が未来の便利グッズとかラベンダーの香りのする薬を手にすることになったのか、ということは最終巻の『リライブ』でちゃんと明かされるのでご心配なく!
その前に、『リアクト』について書こうと思います。
シリーズ4作品の中で時間旅行SFものとしては、『リアクト』がすごく面白いと思うんです。
面白さが分かるためには『リライト』『リビジョン』と続けて、『リアクト』を読む必要があるのですが、『リライト』に関してすごく掘り下げています。
『リライト』の印象がそれこそがらりと変わります。
では、引き続き、付き合ってくださる方、よろしくお願いします。
次作、『リアクト』について