ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

読者一同、日常に辟易

『坂東蛍子、日常に飽き飽き』  神西亜樹
 

坂東蛍子、日常に飽き飽き (新潮文庫)

 
 
 
編集者がインターネット上の小説から探し出し、大賞を決める新潮nex大賞。
その第一回受賞作である今作。

 

 
まず始めに、この作品めちゃくちゃ疲れます。パワフルです。
容姿端麗、学業優秀、運動抜群、ド天然、ド近眼......そんな主人公坂東蛍子と蛍子の一挙手一投足に翻弄される周りの登場人物。
何も振り回されるのは作中の登場人物だけでなく、読者も含まれる。
それこそ、落ち着きのない子供のように話があっちこっちへ行くので、いい意味で落ち着いている暇がない。
 
蛍子の行動に始まり、それこそポンポンと飛び火するかのように登場人物の話に移り変わる。蛍子の話に戻ってきたころには、あれ、なんか壮大な話になったと思っていたけれど、なんか普通にこじんまりと落ち着いた! と思えるほど。
そう思えるほど、蛍子にとっての「日常」が登場人物、読者一同を振り回す。
 
 
まず、1話目。
蛍子、誘拐犯と誘拐された子供と同じ車に居合わす。
(本人はそうとは気づいていない)
 
2話目。
蛍子、人形の国へ向かう。
(本人の記憶には残らない)
 
3話目。
蛍子、男子生徒のジャージを着る。
(本人は自分のを着たと思っている)
 
4話目。
蛍子、世界を滅ぼしかける。
(本人は普通の生活をしている)
 
坂東蛍子があまりにも無自覚にとんでもないことをやらかすので、周りの人がハラハラしながらその行動を負い、なんとかしようとするため、物語はあらぬ方向へ行ってしまう。
 
そして便宜上、「登場人物」「周りの人」と表記したけれど、このハチャメチャ群像劇に登場するのは、なにも「人間」だけではない。なんといっても、登場人物の数がとんでもない。
 
主人公、坂東蛍子。
蛍子と仲違い中の親友。
蛍子の思い人。
極道のむすめ。
合衆国の諜報員。(ここまで人間)
大尉、松坂、轟、と名前がたくさんあり人間と同じような自我を持つ猫。
同じく自我を持つ鳩、ヒラ。

人間に恨みがある人形の国出身、人形ウィレム。

国際ぬいぐるみ条例を順守するウサギのぬいぐるみ、ロレーヌ・ケルアイユ・ヴィスコンティ・ジュニア(通称ロレーヌ)
極秘開発され存在を秘匿された人工知能搭載型特務用アンドロイド。
頭同士を突き合わせることで記憶を共有させることができる大マゼラン雲第四惑星人、Twitter中毒。
そんな地球上でのやり取りを見つめる閻魔大王含む神々。
 
以下、人間その他含め登場人物多数。
 
 
 
蛍子が主人公、ということで間違っていないと思うけれど、蛍子のあずかり知らぬところであまりにも多くの事が起きすぎる。
読んでる最中もあまりにも視点がくるくるするので、主人公として蛍子が登場する機会は少ないように思えてしまう。それほどその他大勢のキャラクターが濃すぎるというのもあるのかもしれない。
第一、蛍子よりも、持ち主である蛍子の身を案じて文字通り東奔西走するぬいぐるみのロレーヌの印象がいちばんに強く残っている。
それでも、たとえそれが好意的な動機であれ、悪意であれ、蛍子の行動に多くの人が巻き込まれてしまうのは、坂東蛍子が主人公として、ヒロインとして魅力的だからなのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
......。
とりあえず、この本を手にする際には覚悟していただきたい。
本当に覚えきれないほど万物が登場
するし、それぞれが好き勝手に動き回るので、必死についていくのが精いっぱい。
 
 
ただ、次作にあたる『坂東蛍子、屋上にて仇敵を待つ』がすでに手元にあるということは、つまり、そういうことである。