『PK』 伊坂幸太郎
「PK」と聞いたとき、何を最初に思い浮かべますか。
サッカーのペナルティキック(Penalty Kick)。
キッカーとゴールキーパーが一対一の状態で行われるフリーキックの一種。
あるいは超能力(サイコキネシス、PsychoKinesis)。
キャラクター同志でステージの外に押し出しあうゲームに登場する、とある帽子被った少年のキャラが炎を発生させる技を使用する際に発する言葉、PKファイヤー。
今作『PK』 は、「PK」「超人」「密使」の3篇で構成されていて、
「PK」は、作中のワールドカップ予選でのあるペナルティキック前に、2選手の間で交わされた会話について思索する話。
「超人」は、将来殺人を犯す人物の名前がメールで事前に知ることができるようになってしまった少年の話。
「密使」は、他人から日付が変わる前のほんの少しの時間をもらう、時間スリの能力を得た少年と未来の世界の話。
作品全体としては、SFっぽい感じ。
どの話にも『ゴールデンスランバー』や『モダンタイムス』のように、正体の見えない、個人では抗いようのない、集団の大きな力が背景にある。
別の作品のようにみえる「PK」と「超人」が「密使」でゆるやかにつながる。
“つながる” と言っても、伏線をきっちり張ってパズルのピースがぴったりと合わさるようなつながり方ではなく、3つのお話を読んで少し引いてみると、ぼんやり顔のように見えるみたいな雰囲気のつながり方。
伊坂作品の、痺れるようなあの伏線をきっちり回収する話が読みたい! という方はちょっと物足りないかもしれないです。
ゆるやかにつながる3つのお話としてではなく、それぞれ独立したお話として考えたとき、私は表題作の「PK」がいちばんお気に入り。
サッカー選手の他にも、作家が登場するのだけれど、その奥さんとのやりとりがよい。
前述の通り、作家も自身の作品について、“作品をよりよくするために”と謎の男の人から、何箇所か訂正するよう忠告される。
訂正を受け入れない場合、身の危険を覚悟した方がよいと脅されるものの、要求の本意が見抜けず不気味に感じ、不安を妻に悟られる作家。
要求に従うべきかくよくよと悩む作家に対し、“どうにもならない大きな力がはたらいているときは、どうにもならないのだから何をしても大きな影響がない”、“子供たちに自慢できるほうを選べばいいんだから”と言ってのける。
基本的に伊坂さんの小説に登場する女性って、芯が通っていてかっこいいですよね。
そして、いち伊坂ファンとしては“PK”と聞くとペナルティキックでもサイコキネシスでもなく、クマのプーさんがぱっと頭に浮かぶ。
「PKって何の略か知ってる?」
「クマのプーさん、の頭文字をとってさ、PKって言うんだ」
「バカジャナイノー」
同じく伊坂さんの作品の『グラスホッパー』で出てくる男の子の兄弟とのやりとり。
クマのプーさん、ではKPなのだけれど、“英語”の場合“苗字”と“名前”の順番が逆になるので、クマのプーさんはPK、らしいです。
伊坂キャラクターの中でも、あの兄弟がすごく好きで、今でも友達とのやりとり等で「バカジャナイノー」って使ってます(当然だけれど、大抵の相手は不思議な顔をする)。
そういえば、『グラスホッパー』に出てくる鈴木の奥さんもつよい女性だった記憶が。
以下、本の内容にざっくり触れています。
未読の方はご注意ください。
3つの話をゆるやかにつなぐ役割をまさかのゴキブリが担っているわけですが、伊坂作品にゴキブリって結構登場頻度高いですよね(笑)
『重力ピエロ』では、昔から地球上にいるという理由で「ベテラン」と呼ばれていたし、『魔王』では姿動きに加え、ゴキブリという名前の響きがより悪いという理由で「せせらぎ」と呼ばれていた、はず、たぶん。
そういえば、どちらも兄弟が主軸の話ですね。
未来を救うために得体の知れない大きな力がはたらいていて、「PK」と「超人」は「密使」によって派生したパラレルワールドみたいなもの、というとおさまりがよいけれど。
密使=ゴキブリなので、ゴキブリによって派生したパラレルワールド、と考えるとなんか字面間抜けですよね、
大森望さんの解説読むまでは、次郎君についてすとんと落ちていたのだけれど、確かに細かく時代設定考えると不思議である。
個人的には、テレビに吸い込まれて無事に帰ってきた次郎君の存在自体がより不思議なのだけれど、ある意味PK(サイコキネシス)なのかも。