最初の更新はこの本と決めていました。
つい先日発売した伊坂幸太郎の『アイネクライネナハトムジーク』です。
この本は長編ではなく、『アイネクライネ』から始まる6編の連作短編小説。
何年も前から伊坂さんの作品がすきで、書籍化した作品はあらかた読んできたのですが、個人的にこの本は過去の作品の中でも上位に食い込むのではないかと!
伏線を張って回収をする、という話が多い伊坂さんですが、今回も例にたがわず。
一見、関係のない人たちの物語に見えても、読み進めるうちにつながっていく感じは小気味よい。
『アイネクライネ』
普段お気に入りの作家さんの新刊が発売されたときは文庫化まで待つのですが、今回単行本を買ったのはこの話があったからといっても過言ではないです。
伊坂ファンならばタイトルの”アイネクライネ”の文字にハッとするはず......。
以前にミュージシャンの斉藤和義さんに歌詞の提供をお願いをされ、作詞はできないけれど小説を書くことならばできる、と伊坂さんが短い話を考えたことがありました。
その短編をもとにできた曲の名前が『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』。
斉藤和義 - ベリーベリーストロング~アイネクライネ - YouTube
かねてから何回も何回も聴いていたので、新刊発表のときからこの曲に関係のある話なのか気になって仕方がありませんでした。
店頭に並んだこの本を手に取って、物語の最初のページに目を通した瞬間に”あの曲の話だ!”と分かり、居ても立ってもいられずそのままレジへ。
そんな『アイネクライネ』は曲と同様、上司から命じられ、不本意ながら街頭アンケートをすることになった青年が、ほんのした出会いのきっかけからものの見方がちょっぴり変わり、世の中悪いばかりではないかな、と思い始める話。
続く『ライトヘビー』は、顔も知らないふたりがゆるゆると電話だけで関係を深めていく話。
『ドクメンタ』は、奥さんに別居を告げられたサラリーマンが、自動車免許更新所での出会いをきっかけに希望を見出す話。
『ルックスライク』は、冴えない自分の父親のことが嫌いだった男子高校生が、決して決定的ではないけれど、あることをきっかけに悪くないかも、と思う話。
『メイクアップ』は、会社の取引で学生時代にいじめっこだった女性に出会い、同僚に言われるがままささやかな復讐を試みる話。
最後、『ナハトムジーク』。
クラシックのアイネクライネナハトムジークが日本語で小夜曲と訳されるように、人々の小さなつながりがぼんやりとした大きなつながりになっていく、その総まとめにあたる話。
まとめとは言っても決して派手ではなく、人と人とのつながりってなんかいいかもしれない、部分部分を見れば不格好なところはあるけれど、全体を見たら案外悪くないかも、そんな風に思える話。